ヒールアンドトゥというと、サーキットなどでスポーツ走行をする際に使う技術だと思われるでしょう。
しかしヒールアンドトゥはスポーツ走行だけでなく、街中を普通に走っているときにも役立つことがあります。
それが坂道発進のときです。
近年のクルマはMT車であっても、ブレーキホールドと呼ばれるブレーキペダルを踏んでいなくても停止状態を維持してくれる機構や、傾斜を感知するとクルマが下がってしまうのを一定時間抑えてくれるヒルスタートアシストなどが装備されつつあります。
このような装備が装着されているクルマであれば坂道発進も簡単ですが、装着されていないクルマの場合の坂道発進は多少厄介です。
しかしヒールアンドトゥを使えば、エンストもしにくく、下がってしまうことも無くなります。
どうして坂道発進するときにヒールアンドトゥを使えばスムーズに発進できるのか、ヒールアンドトゥとはどういう風にするのかなど、詳しくご紹介しましょう。
MT車の坂道発進が厄介な理由
そもそもどうしてMT車の場合、坂道発進が厄介なのでしょうか。
平坦な道の、例えば信号などでブレーキを踏んで停車している状態から発進するには、まずクラッチを踏み、ギアをローに入れ、ブレーキペダルからアクセルペダルに足を移し、軽くアクセルを吹かしながらクラッチを半クラッチにしていきます。
しかし坂道発進になると、ブレーキペダルから足を離した瞬間からクルマは下がっていくので、「いかに早くアクセルを吹かすことができるか」ということ、さらに「いかに早く半クラッチの状態にできるか」が重要ということになります。
これが素早くできなければ、坂道でクルマはズルズルと下がってしまいます。
さらにアクセルの開度が少ない場合や、クラッチを早くつなぎ過ぎるとエンストしてしまいます。
このことを防ぐためにサイドブレーキを使い、ブレーキペダルから足を離してもクルマが下がらない状態にして発進する「サイド合わせ」という方法もありますが、坂道で停止する度にサイドブレーキを引くのは面倒だといえます。
ヒールアンドトゥとはどういうものか
ヒールアンドトゥは本来スポーツ走行をする際に用いられるテクニックです。
ヒールアンドトゥについては、前回の記事「ヒールアンドトゥをマスターするためのプロセス」内で詳しく説明していますので、ここでは簡単に説明しておきます。
ヒールアンドトゥは、足のつま先側でブレーキを踏みながら、足を斜めにズラし、かかと側でアクセルペダルをあおるという動作のことをいい、スポーツ走行ではブレーキを掛けながらギアをシフトダウンする時に使われます。
坂道発進時に使うヒールアンドトゥ
スポーツ走行時のヒールアンドトゥはブレーキを踏む強さを加減しながら、シフトダウンするギアに合った回転数までアクセルを吹かすという作業になるため、慣れていないと難しい技術です。
しかし、坂道発進時に使う場合はそれほど難しくありません。
具体的な手順を説明すると以下のようになります。
1.ギアをローに入れ、クラッチを切った状態にし、ブレーキを踏んだままの状態で、かかとだけをズラしてアクセルをひと吹かし。
2.エンジン回転が落ちないうちに、ブレーキからアクセルに足を移してエンジン回転を保持しながら、同時に半クラッチにする。
坂道発進のヒールアンドトゥは思ったより簡単
坂道発進の際にヒールアンドトゥを使う場合、ブレーキはクルマが下がらないようにしっかりと踏んでいれば良く、スポーツ走行時のように踏み加減を調整する必要はありません。
またアクセルの踏み加減も、ギアに合った回転数まで吹かすという繊細なものではありません。
発進に必要なだけエンジン回転が上がれば良いので、それほどシビアな操作は求められません。
どうして坂道発進が楽になるのか
ではヒールアンドトゥを使うと、どうして坂道発進が楽になるのでしょうか。
それは「MT車の坂道発進が厄介な理由」の項で説明した「いかに早くアクセルを吹かすことができるか」、「いかに早く半クラッチの状態にできるか」に影響するからです。
いかに早くアクセルを吹かすことができるか
ヒールアンドトゥを使うとブレーキを踏んだままアクセルを吹かし、その後ブレーキペダルから足を離してアクセルペダルに移します。
これはすなわちブレーキを踏みながら事前にエンジン回転数をある程度高めていることになります。
アクセルペダルに足を移す間に回転が少し落ちたとしても、坂道から発進できるだけのエンジン回転数が既に得られているということです。
いかに早く半クラッチの状態にできるか
坂道でクルマを発進させる際には平地での発進と比べ、ある程度エンジン回転数を上げてやる必要があります。
坂道の角度にもよりますが、アイドリング状態のまま坂道発進しようとすると、エンジンパワーが足りず、エンストしてしまう可能性があるからです。
つまり半クラッチにする時にはエンジン回転数も上げておかなければならないのですが、エンジン回転数が上がっていなければ半クラッチにすることもできません。
ヒールアンドトゥを使うと、あらかじめエンジン回転数を上げておくことができるため、半クラッチにするタイミングを早く作り出すことができます。
その結果、坂道であってもクルマが下がってしまうことがなくなるわけです。
ヒールアンドトゥの練習方法
坂道発進でヒールアンドトゥを使うのはそれほど難しくはありませんが、それでも初めてトライする時は不安なはずです。
まずはギアをニュートラルに入れたまま、ブレーキを踏みながら足をズラし、アクセルペダルをかかと付近で踏み、エンジンの回転をある程度コントロールできるようになってください。
それができるようになったら、かかと付近でアクセルを吹かした後、すぐにアクセルペダルに足を移動させ、エンジン回転を保持する練習です。
ここまで出来たら、次は平らな場所で実際にクルマを発進させてみます。
最初はクルマの前が開けた場所でやってみるのがいいでしょう。
平らな場所でスムーズに発進できるようになってから坂道でトライしてみましょう。
ただし、初めのうちは後ろに後続車がいるような時はやらない方が良いでしょう。
クルマが下がってしまっても大丈夫な時に練習するようにしましょう。
まとめ
坂道発進でヒールアンドトゥを上手く使えるようになると、サイドブレーキを使わなくてもクルマが下がってしまうことはありません。
特に上り坂の途中で一時停止がある場合など、サイドブレーキを引くのは面倒です。
そんな時こそ、ヒールアンドトゥを使って発進すれば非常に楽になります。
ブレーキホールド機能やヒルスタートアシスト機能が付いていないMT車に乗っている方なら、是非練習してマスターしてください。